【往還集123】39 岡井隆『わが告白』・3

『岡井隆ノート』は『O』から『朝狩』まで、つまり青年歌人岡井の最も脂の乗り切った時期を対象にした。
これ以降も書き継ぐつもりだったが、歌会初選者になった〈事件〉をきっかけに、力が萎えた。
もし再度書き継ぐことがあれば、全てが見渡せる時点になったときだ。
もっともそのときは自分のほうが消えているかもしれない。
岡井はなぜ皇居への橋を渡ったのか。「物を書いたり創ったりする文人やアーティストには栄誉を求める心がある。」これだ、栄誉追求心!「私は正面からこの欲望を肯定することによってやっと心の平静をえた。」
人の多くに栄誉願望があるのは、確かだ。自分も、こそこそとあるいはがむしゃらに栄誉を求める人を腐るほど見てきた。岡井はこの欲望を解禁した。いったん解禁すれば、歯止めがない。
けれど栄誉は生きているときだけのもの。やがては跡形もなく霧散するのも確かなことだ。
(2012年4月30日)