【往還集123】26 加藤周一

加藤周一『日本文学史序説』は上、下巻の大著だ。1975年刊行。
私はそれをいつか読まんと購入しておいたが、なんとなく読みそびれて今日まできた。この一年、どういうわけか本質的なものに接したい気分になって日々読み進め、やっと上巻を終わった。
日本の政治・文学・宗教・美術その他への博識ぶりには、まず驚嘆する。一個人がここまで跋渉することが可能だとは。
加藤は最初に「日本文化のなかで文学と造形美術の役割は重要である。各時代の日本人は、抽象的な思弁哲学のなかでよりも主として具体的な文学作品のなかで、その思想を表現してきた。」という。
また日本文化の争うべからざる傾向は抽象的・体系的・理性的よりも具体的・非体系的・感情的な人生の特殊な場面に即して、ことばを用いることにあると指摘する。
なるほど。この一言でさまざまな謎が氷解する。定型文学などは、なかでも典型的だ。
(2012年3月29日)