【往還集123】20 閖上中学校

校庭に今も漂着したままの船がある。
校舎内に置かれたままの剥製のキジ。首を傾げたまま。

閖上の日和山に立つと、ただただ空域が広がり、宇宙の星に迷い込んだ気になる。
花束を供え、しばし額づいて、それから近くの閖上中学校に寄る。
すると校舎前の新しい石碑を、磨き上げている人がいる。慰霊の式を、除幕を兼ねて、3月11日にやるのだという。碑面には、14名ひとりひとりの名が刻み込まれている。
校庭に立つと、3隻の船が漂着したまま、錆を深くしている。校庭のすぐ下にも、舳(へさき)だけの残骸がある。
校舎は3階建。1階ずつ巡っていくと、津波寸前までのさまざまな器物、掲示物がそのままにある。音楽室のピアノ、美術室の石膏像も、波をかぶりながらも形はしっかりと留めている。剥製のキジも、「なにがあったんだい?」と問いたげに首を傾げている。
正面玄関前の時計は、2時46分で止まったまま。生徒たちはこの校舎に再び戻ることはない。すべてがこの時間で停止した。
(2012年3月 9日)