【往還集123】21 「山」

図書室に掲示されている、まど・みちお作「山」。

閖上中学の図書室は施錠されていた。廊下から窓越しにのぞいたとき、壁に貼り出されている墨書を見つけた。「山」。作者は「まど・みちお」。こんなところにまどさんが生きている!家に帰って調べたら『風景詩集』にある。一連目は次のよう。

旅にでて
ふと気がついて 心なごむのは
空の とおくに
知らない山があって
知っている山のように
生まれたときからのように
こちらを見守っていてくれることだ

この学校にまど詩を好きな先生がいて、掲示してくれたにちがいない。そう思うと無残な津波の痕ながら、ほっと明りがともる気持ちになった。
まどさんはもう百歳を越えた。その人柄はまるで「山」そのものの優しさ、そして羞恥の人。「路上」も随分長く購読してくれた。自分が『詩人・まど・みちお』(北冬舎)を上梓するときも、消え入るばかりに恥ずかしがるので、こちらが恐縮してしまった。
(2012年3月10日)