【往還集123】16 『白秋望景』、花巻へ

 書評の依頼がきた。川本三郎『白秋望景』(新書館)。
書評は怖い。評するほうの実力がたちまちわかるから。特に著者はすぐに見抜く。
けれど読むことはまたとない勉強のチャンスでもあるから、できるだけ引き受ける。
 ところがこの本、分厚い。締切も迫っているから必死で読まねば間に合わない。今日は花巻で賢治学会の会議。新幹線に乗ってすぐに、読みはじめる。
 外は大雪。
 「白秋にとって故郷柳河は失われた町、廃市である。」
 栗駒高原駅。吹雪で視界がきかない。
 「風景はいつも発見されるものだ。」
 平泉を過ぎる。錆色の北上川が蛇行する。「「姦通罪」という禁止があったからこそ恋愛に燃えたのかもしれない。」
 水沢江差。さらに激す雪。雪狼(ゆきおいの)が走り回っている最中。
 「白秋はいつごろ、どこで童貞を失ったかである。」
 賢治は生涯童貞。ひたすら読んでいるうちに、もう新花巻。膝まで届く積雪となっていた。
(2月25日)