【往還集123】1「昔は海」

1 日向ぼっこするカモたち

 正月も明けた。寒冷つづきだったが、午後になって日差しが出て来たので、サイカチ沼へ。
雑林は葉を落とし尽くしている。山の傾斜に合わせて上下する遊歩道が、縄梯子のようだ。
湖面にはカモが浮いているはずーーと思ったら、一羽もいない。静まり返って、小波だけが伸び縮みする。
 と、よく見たら、湖をせき止めるコンクリートに一羽ずつ並び、日向ぼっこしている。一声も立てずにじっとしているから、見逃すところだった。
湖沿いの道を歩いていくと、祖父とその孫と思しき二人が、赤土のあらわな崖に這い上って、掘削している。「何か探しているのですか」と聞くと、「貝の化石です。昔はここが海の底だったから、いまでも出てくるんですよ」という。昔は海、ということはまたいつか海になるかもしれない。
 話はこれだけだが、いきなり億単位の時間がユワーンと撓んでくる気がした。
(2012年1月4日)