【往還集122】34「『ピース・ヴィレッジ』(偕成社)」

 『川口常孝全歌集』(砂子屋書房)を朝に少しずつ読んできて、今日『兵たりき』を終わる。
 川口は昭和18年、24歳で第1回学徒出陣。大陸に渡るが病気で帰還し、広島陸軍病院可部分院に入院。そこで被曝のさまを目撃。 この体験を残さずにはいられない。73歳で刊行したのが、『兵たりき』。凄まじい戦争詠・被曝詠だ。
 なかに長歌「渇を癒すと」がある。大陸の激戦のさなか、水をもとめて村落へ入る。赤子の声に一人の兵が家に入る。
 「何事と眼(まなこ)凝らせば その兵の赤子を抱きて 頭撫でわれに託して その母の胸乳(むなち)を探り 懸命に吸い始めたり。その女人静かに応じ 拒 む気配全く見せず 吸わるるに任せて暫し 時の流れに己を委ぬ。ようやくに出ずなりにたる 乳房に深き礼(いや)して その兵のそこを離れぬ。その刹那思 いも寄らぬぬ 極まりし慟哭の声 兵の身を根こそぎ揺すり 朝寒の空気震わす。」
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(12月15日)