【往還集122】34「荒浜にて」

瓦礫のほとんどが片付いた荒浜一帯。コンクリート製の土台だけが、家屋の面影をとどめている。
防潮林の松林は根こそぎになり、そのまま荒々しく倒れている。

 閖上大橋を渡って、荒浜へ。道路の信号は全て止まったまま。コンクリートの土台が、集落の面影を辛うじて残す。が、田畑の瓦礫はほとんど消えて、巨大な校庭のように整地されている。
 復旧への大きな一歩—-のはずなのに、心のほうが置き去りにされた空虚感が。破壊されつくした家屋や車の凄惨さに、胸潰れんばかりの衝撃をうけたというのに、これはどうしたことだ。
 いまにして思えば、瓦礫は瓦礫なりに人間側に属していた。それすら全て奪われて、完全な無機の世界になってしまった。
 防潮堤に立って、ここにも花束を。砂浜もすっかり片付いている。午後の海の、なんという静けさ。雲の切れ間から、日差しが放射される。彼方には仙台港がある。そこからいま、大型客船が白色の船腹を反照させて出てきた。
 「なにごとかあったなんて、みんなウソ。昔からなにごともなかったさ」海は、聞きもしないのにいう。
(12月7日)