【往還集122】29「朝刊」

 『河北新報のいちばん長い日』(文藝春秋)を読みはじめて、涙が湧くのを止めることができない。かたわらにロールペーパーを置いて、何回も引きちぎる。涙を拭っては、頁を開く。
第1章は、震災の翌日、朝刊を出すまでの奮戦ぶりだ。自分もあの夜から朝にかけてのことを、よく覚えている。ライフラインが断裂し、あらゆるものを着込ん で蒲団にもぐりこんだ。それでも体は冷凍肉のような冷たさ。ラジオは、三陸の惨状を伝える。各地の被害状況を告げながらアナウンサーが、「なんということ が起きたのか」と絶句し、声をつまらせる。いまのこの瞬間にも、泥をかきわけて救助を求めている人がいっぱいいる。折りも折り、非情の雪だ。
 けれど、自分になにができる?無力感に苛まれる。いま、この時点で、こちらにできる唯一の社会貢献は、病に倒れないこと、人の手をわずらわせないことだけだった。
(2011年12月4日)