【往還集122】21「奥新川(おくにっかわ)」

奥新川の山間にかかる鉄橋を、仙台方面行きの電車が渡っていくところ。

 仙台から山形へ越える途中に、作並温泉がある。温泉街に入る少し手前を左折すれば、たちまち林道に入る。細いでこぼこ道を難儀しながら、車はゆるゆる走る。
やがて峠の頂上。
 いきなり視界が開けて、折り重なる山々が目のまえに広がる。霧の季節なら、壮大な水墨画の世界そのまま。新緑の季節なら、こちらが恥ずかしくなるような、初々しいさ緑。そして今日は、紅葉の季節最後を飾る、全山赤銅色だ。
 カメラマンにとってここは、人気のスポット。谷深いところに、一つだけ鉄橋がみえる。一時間に一本の電車を、辛抱強く待ち構える。鉄橋の西方向には、奥新川駅がある。そこを発つと、しばしコトコトコトコト鉄路が響(とよ)む。間もなく、すーっと消えてしまう。
 あれ、この電車、山形行きだったのかと、初心者は錯覚する。
 実はトンネルに入ったのだ。出てすぐに鉄橋がある。その瞬間がシャッターチャンスである。
(11月4日)