【往還集122】19「長谷川櫂『震災歌集』のこと」

 俳人の長谷川が、俳句ではなくて短歌を震災後12日間で作り、4月には歌集として刊行した。衝撃を表現するに俳句では間に合わない、おのずと短歌になったということはわかる気がする。
 だが、なぜ私領域のつぶやきとして秘めておかず、早々に公刊したりするのか。
もしかしたら、秘めておけないほどの傑作かもしれない。確かめるためには、実物を購入して読むにしくはない。
 その結論。出来具合はいいのもあるが、素人並の凡作も多い、この時期に歌集として打って出るほどの価値があるとは思えないーーだ。
 だのに急いで刊行したのには、たぶん別の動機がある。時期を逃さず商品化すること。その意図が出版側に強かったという想像もつく。なにしろプロの俳人が、こともあろうに別の分野を手段にしたのだから。この意外性が衆目を集めると踏んだ。
 もっとも、それに長谷川が乗っかったのも否定しようがない。
(11月2日)