【往還集122】18「広大な空虚」

 あの日から8か月たとうとしている。外見はかなり落ち着いてきたとはいうものの、いまでも津波の映像を目にするだけで胸が引き裂かれる。海をまえにすると、膝を屈してしばし立ちえない。
 いったいあの日に何をみたのか、その後を生きるとはどういうことかーー。
この問いは消えようとしない。
 神山睦美『大審問官の政治学』(響文社)を読みはじめる。彼は自主講座の終了した7月2日、仙台へ。荒浜地区、閖上漁港を周る。被災の想像を絶する広がりに「それまで持っていた大津波についての情報をすべて打ち砕かれたかのような衝撃を受け」る。
仙台行の直前まで3年間続けてきた講義、あれは何だったのかと問う。そして「ある確信」が生まれる。
 「私の講義は、私たちの存在が、いつかあの広大な空虚そのものとなっていくことにあらが抗うために行われてきたのだ」。
 これは講義だけでなく〈その後の生〉も指していると思った。
(10月31日)