【往還集122】17「コーヒーと柿の葉ずし」

 ここからは『水馬』に記されていない。
霊屋橋を渡り、瑞鳳殿入口まで来る。古風で小さな店が目に入る。「萬葉 柿の葉ずし」。6個入りを買い、広瀬川を渡る。評定河原(ひょうじょうがわら)野球場では、若者のチームが練習の最中だ。缶コーヒーも買い、バックネット裏のスタンドに腰をおろしす。早めの昼食だ。塩サバの酢めしとコーヒーとは変な取り合わせだが、思いのほかの美味。
 目を上げると、瑞鳳殿を包み込む大きく厚い杉山が迫る。
ここに来ると個人的な感慨がいつでも甦る。東京の茂叔父。彼には幼い日以来、何かにつけてお世話になった。仙台に来たときは家に泊まってくれた。
 そのとき瑞鳳殿を案内したが、急坂を十歩登ってはあえぎ、何度も小休止しては笑ってみせた。戦後の苦しい時代、肺を病んで片肺状態になっていたのだ。
 亡くなってから随分時間は過ぎた。自分にとって最も近しい親族の、最初の野辺送りだった。
(10月28日)