【往還集121】38 「イノシシ」

山を目のまえにした畑。ジャガイモはイノシシにご馳走してしまった。

自分の畑は、車で十五分西へ走った閑静な場所にある。定年になって本気で耕しはじめて、七年。やっと土も肥えてきた。その分、ちょっとサボっただけで雑草 が繁茂する。有機農業とは雑草との戦い。いつしか雑草の胸を借りている気分になる。作物は、天候に左右されるが、手をかけたぶん立派に育ってくれる。その 点は、人間よりも正直だ。ところで今年は思いがけない異変が。ジャガイモの芽がのびはじめたので、芽掻きをしようと行ったら、すっかり食いつくされてい る。〈敵〉はすぐわかった。二分かれの蹄のあとが、無数にあったからだ。イノシシ。近所の農家の人に聞くと、この地区一帯がやられたという。サルはずいぶん駆除されたが、今度はイノシシ。夜中にファミリーでやってきて、鼻先でぐいぐい土を掘り起し、たらふく食べたにちがいない。悔しいには悔しい。が、どこか憎めない光景でもある。
(2011年9月6日)