【往還集121】32 『セックスはなぜ楽しいか』ジャレド・ダイアモンド(草思社)

 翻訳に当った長谷川寿一によると、出版直後に注文したところ、貴国ではポルノ扱いされるので通関できない可能性ありの返事が来たそうだ。なるほど、このタ イトルでは。しかし中身はきわめて真面目であり、性や人間の根本に及んでいる。「性はわれわれに最も深い喜びをもたらすが、逆に苦悩の種となることもあ る。そうした苦悩のほとんどは、進化によって生じた男女の役割のあいだの本来的な対立から生まれるのだ。」フェミニストは男性中心社会に異を唱える。私は その思いに共感しながらも、権力者としての男性に生まれたかったわけでないといつも考えてきた。ジャレドはこの性差の因を、他の生物との比較において論証 し、男女の役割の生じる根源へ迫っていく。ここからはじめなければ、性差の問題は解けてこないのだと、目の薄膜がはがれる思いがした。
(8月29日)