【往還集121】31 『正法眼蔵』(河出書房新社)

 石井恭二注釈の『眼蔵』全五巻を、墨筆で書写しようと思い立って、やっと三巻まできた。なにしろ名だたる超難解物。立松和平『道元禅師』その他の助けを借 りて、なんとかかんとかやってきたが、難解にはかわりはない。ほんの折りに「なるほど」とうなずける章に出会う。「説心説性」の六章。「菩提心をおこし、 仏道修行におもむくのちよりは、難行をねんごろにおこなふといへども、百行に一当なし。」とはじまる。石井訳によれば、どのように修行しても百の矢を射て も一つも当たることのないのが普通だ、知識に学び、経巻に学ぶうちにようやく一当を得るのだ、「いま得た一当はむかし百の矢を射た努力の賜物である、当ら なかった百の矢に籠った努力が熟したのである。」「徒労のような努力によって道は自在に通ずる」なかなかいいことをいってくれる。いつも徒労ばかり重ねて いる自分など、勇気づけられます。
(8月29日)