【往還集121】18「放射能てんでんこ」

 動かなくなった車からガソリンが抜き取られた、避難所にいる間に家財が盗まれ、金庫も車も運び去られた、遺体から貴金属類が抜き取られた—-。あまりに 多くて報道もされない事件は、頻繁に起き、押しつぶされている被災者を二重に押しつぶした。これらはまぎれもない犯罪が、合法的な「てんでんこ」なら、公 然と頻発した。私のいる仙台は、放射能からはとりあえず安全とみられていた。ところが東電も政府も信頼できない空気が広まった。パソコンの情報は、放射能 に関しては危機的情報ばかり。それに恐怖感をもった人たちは、県外に脱出しはじめた。ガソリンはない、鉄道も休止だから、バスに頼るほかない。そのためバ ス停のまえには、連日長蛇の列ができた。山形空港から北海道へ、関西、九州、沖縄へと逃れていく。富裕者や外人は、海を越えて、一気に海外へ逃れる。私は これを「放射能てんでんこ」と呼ぶことにした。
(2011年7月23日)