【往還集121】17「どうぞ、ご随意に」

 自分ならどうするか。もし家族が家にのこっているなら、とりわけ小さな子がいるなら、たぶん、引き返す。それによって波にのまれてもしかたがない。そも そも、なりふりかまわず生きることがいいとは思っていない。それならば逃げ延びる人に批判的かといえば、ここは年の功というべきか、いいかげんになったと いうべきか、「どうぞ、ご随意に」の気持ちになっている。ただし、目の前の事態だけは冷静に見ておきたい。大震災の取材に入った外国の記者が、一様に驚い たのは日本人の規律のすばらしさだった。暴動を起こさない、行列も乱さない、献身的であるなど、こちらが気恥ずかしくなるほどの評言。日本人を見直したと いう、中国人記者すらいる。これらに連動して「日本はすばらしい国」「日本はひとつ」と高唱し、ナショナリズを喚起しようとする動きも出る。が、私が見聞 する情報は、美しいものばかりではない。
(2011年7月22日)