【往還集121】14「大川へ 4」

大川小学校 卒業制作「銀河鉄道の夜」。津波に呑まれながらも、作品をとどめていた。

 教室の棚に置かれている時計は、3時37分で止まっている。大地震がきてから、約1時間。この間、どのように対処したのかが当然問われた。殊にわが子を 喪った親たちは、やりきれない思いで問うた。なにしろ校舎のすぐ後ろは杉山だ。ここに逃げ込めばと、誰しもが考える。ただし上へ通じる道はない。それに河 口だとはいえ、海が見えず、情報も十分でない。過去に津波襲来したこともないから、住民ですら危機意識はなかった。学校では生徒を校舎外に避難させ、迎え に来た何人かの保護者には引き渡す。津波が近づいた報に、校舎に近い高台へ移動させはじめ、そこで襲われてしまった。 敷地をめぐるうちに、卒業制作の壁画が目に入る。「平成13年度制作」は、賢治の肖像と銀河鉄道を描いた力作。「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」の詩句の、 「雨」と「風」が破損し、鉄筋さえむき出しになっている。海の力は、あまりにもあまりにも強かった。
(2011年7月11日)