【往還集121】4「震災詠」

 圏内・圏外の境界なしと断言したそばから、逆のことをいってしまうようで、ちょっと都合悪いが、直接的被災者の歌のほうに読ませる力があったのは、否定 できない。「実人生」といってはおもしろくないから、「肉体性」としておくが、「肉体性」と短歌の生理は根の深いところでいまだに交響し合っているらし い。「津波のように」押し寄せた歌のなかから、ほんのわずかを引用してみる。まず仙台を拠点とする「群山」6月号から。会員には、地元の被災者が多くお り、震災詠の多さも群を抜いている。
匂ひなく色なく迫る放射能におそれて生きて十日を経たり 奥山隆
津波の跡に泥にまみれて子の遺体捜す母をり放射能汚染地帯に
ほとばしる水道水を手に受けぬ十七日ぶりなりこの感触は 佐藤淑子 同
日常の緩やかに戻る気配あり春服まとひ地下鉄を待つ
(2011年6月7日)