【往還集124】18 目線の低さ

大島史洋『遠く離れて』(ながらみ書房)には、2005年から08年までの作品が収録されている。この間大島は定年退職、近藤芳美を葬送し、故郷の岐阜県中津川へ行き来したはてに母を失っている。
それらの体験が歌集の主調音になっていて、感銘を覚える歌も少なくない。
が、私がいま指摘したいのは大島の目線の低さだ。

おのずから定まる位置は初めよりかくあるべしと知りいしに似る

どういう場面における歌か、前後から推し測ろうとしてもわからない。だからこちらで勝手に範囲を広げて想像するほかない。ここでは大島自身の生き様とみておく。自分が手にしたほどほどの位置、それははじめから「かくあるべし」と決まっていたかのようーー。  ここには大言壮語のかけらもない。ベターッとした、最も低い位置からの視線があるばかりだ。
これが逆に大島短歌の魅力になってきたと、私には思われる。
(2012年6月26日)