【往還集124】6 横山未来子『金の雨』(短歌研究社)

かつて奥村晃作は新刊歌集を次々と読破し、一日一冊の割合でブログに評を掲載した。その一途さはいかにも奥村的だと舌を巻いたが、疲れ果てたか燃え尽きたかしてとうとうやめてしまった。私も歌集や歌誌はできるだけ読む。しかしノートに抄出するだけで、いちいち感想を表明することはない。
それではいけないと思い直して、できるだけ書いていくことにする。
最近注目したのは、『金の雨』。この人の時空感覚、宇宙感覚には、今どき珍しい繊細さ、純粋さがある。

見よといふこゑあるごとく寒空の遠く近くに星のみじろぐ
砂の重みに砂のくづるる音のせりこの世の果てのごとき明け方
ながき脚を芝にゆつくり運びゆく鳥のうへけふも空間のあり
うつむきて髪洗ひゐつ一群の馬ゆき過ぐるごとき雨の間

身辺の具象に染まることなく、彼方を透視するまなざし。その独自の感覚に、私は理屈ぬきにひきつけられてしまう。
(2012年5月16日)