【往還集123】28 フキノトウ

朝、森の小道を散歩する。ウグイス、キジその他の小鳥の声が日毎にふえる。あちこちにフキノトウも芽を出す。
と、自分より早く散策している男性が。近くに止めてある車は秋田ナンバー。建築ラッシュなので、遠くから働きにくる人も多い。 「こんなにフキノトウがいっぱいあるのに、誰もとらないんですか」と話しかけてくる。「放射能の汚染があるので遠慮しているんです。キノコも山菜もしばらくは休みです」
「そうですか、それは……」
秋田の人は、汚染がごく周辺にも入り込んでいることをはじめて知ったようだ。
3・11以降のドキュメントは、この一年で内化した。だから表面上はどこに行ってもふつうになっている。声高に騒ぎ立てる姿はもうみられない。生きていく以上は生活しなければならない。生活するにはふつうであるほかない。
フキノトウはつぎつぎと芽を出し、ぽこぽこと頭をもたげていく。この、のどかさ。
(2012年3月31日)