【往還集122】32「志賀直哉から」

 ワイド版岩波文庫『小僧の神様』に収録されている11の短篇を味読した。
読み終わっての第一の感想は、「こういう名品を、遺物として葬り去ろうとするなんて!」だ。古書店に行くと、バリッとした全集が、信じられないほどの廉価で積まれている。まさに遺物。
 けれど、何度も読んできた作品というのに、いまの心に共鳴する部分もあちこちにある。「范の犯罪」から。「ああいう過(あやま)りが起るまでは私どもはそ んな事はあり得ないと考えていたのは事実です。しかし今此処(ここ)に実際起つた場合、私どもは予(かね)てこう考えていたという、その考(かんがえ)を 持ち出して、それを批判する事は許されていないと思います」。原発問題を、どうしても思い出してしまう。
 「城の崎にて」から。「自分は偶然に死ななかった。いもりは偶然に死んだ。」「生きている事と死んでしまっている事と、それは両極ではなかった。」今度のことがフラッシュバックして、迫ってくる。
(12月6日)