【往還集121】36 『窪田空穂全集』・続

 『青朽葉』のまえの歌集は『鏡葉』。それに、
鳴く蝉を手握(たにぎ)りもちてその頭をりをり見つつ童走せ来る
を見つけたときは驚いた。自分は高校時代に、
あぶら蝉片手に握り走り行く子あり真夏の労働者街
を作ったことがある。これを秀歌だとほめてくれる人がいたが、模倣歌だと知っていたから身を縮めるばかり。しかし誰からのパクリなのか忘れていた。それが 今になってわかった。空穂と全く無縁でなかったわけだ。そうしたら俄然親しみが湧いてきて、日々に開き、『青朽葉』まで来たというわけだ。空穂の歌は、子 どもを素材にしたのが飛びぬけて生彩を放っている。児童文学の先駆者巌谷小波は、みずからを〈子供作家〉と称したが、窪田空穂もまた〈子供歌人〉だ。「子 供歌人としての窪田空穂」を、もう誰かが書いているだろうか。
(8月30日)