【往還集121】35 『窪田空穂全集』(角川書店)

 窪田空穂。この歌人のよさを、私は長い間わからないできた。たとえば石川啄木、斎藤茂吉、北原白秋などに比べても、ちっともめりはりがない。学生時代に新 潮文庫の『窪田空穂歌集』を買った。しかし、あまりに退屈で、数頁で投げ出してしまった。岩田正は卒論に窪田空穂を選んでいる。『窪田空穂』(角川学芸出 版)は、その復刻版だ。彼は「あとがき」に、「どうしてもこの空穂を必死になって抹殺しなければ、三十年代の意欲的な短歌的潮流の片隅に席を置けなかっ た」と書いている。あまりにも大きな存在だったから「抹殺」といわざるを得ないのだが、それがどうしてもわからない。だが、こんなに大物でありつづけると は、何かがあるからにほかならない。「何か」とは何か。私は、わが不明を恥じながらも、ひそかに角川版全集を購入し、まず歌集から開きはじめた。そして先 日『青朽葉』を読み終わった。
(8月30日)