【往還集121】1「死者がいない」

 阪神・淡路大震災は1995年1月17日のこと、死者6000人以上という数に、近代日本でこんなことがあっていいのかと、身が震えた。当時の『短 歌』(1995年4月号)は、早速「緊急特集 阪神大震災を詠む」を特集している。歌人30名による8首+寸感。16年もまえの歌誌を見つけたのは、たま たまでしかない。3.11で書庫の本が総崩れになり、片付け方をやっているときに偶然見つけた。で、作業を中断して読むうちに、あの日に気づきもしなかっ た一点に、ガーンとノックアウトされてしまった。「書き手のなかには死者が一人もいない!」こんなこと、ひどすぎるほどにあたりまえだ。死んでしまえば、 語ることも書くこともできない。したがって書いているのは、すべて生き残った人間だけだ。だのに、この当たり前に、ノックアウトされてしまった自分がい る。なぜ?私は、クラクラする頭をもたげて考えはじめる。
(2011年6月4日)