【往還集124】2 「セロ弾きのゴーシュ」

「鹿踊りのはじまり」につづき、今日は「セロ弾きのゴーシュ」の下調べ。手持ちの文献を山と積み上げ、必死になって。
この作品は楽団にうまく溶け込めないゴーシュが、ネコ、カッコウ、タヌキ、ノネズミの訪問を受け、10日かかって腕を磨くというストーリィ。子どもたちにも人気がある。 しかし成立はそう単純でない。推敲は何度もくり返されており、その期間は1926年から33年と推定される。33年とは賢治が亡くなる年だから、最晩年まで取り組んだ作品ということになる。主人公名も、「テイシウ」「ゴーバー」「ゴーシュ」と変化する。さらにこの童話には、賢治の全音楽体験がこめられている。
そこで今回は実際に仙台フィルのチェロ奏者山本純氏をお招きして、関連作を演奏してもらうことにした。期日は7月5日(木)。プロの〈なまチェロ〉を聴きながらとはなんと贅沢な。今からわくわくしているのは私です。
(2012年5月11日)

【往還集124】1 初ヨダカ

夕べ、いきなりキョキョキョキョという声がした。
え、まさか、こんなに早く。
窓を開けると、まぎれもないヨダカだ。例年なら、夏が近づくころに鳴くというのに。 ヨダカですぐに連想するのは「よだかの星」、そして宮沢賢治だ。今年も「仙台文学館ゼミナール」の時期となった。自分が担当する「宮沢賢治を読む」は6回目を迎える。その準備に入ったところなので、ヨダカが激励にきてくれたのかもしれない。
ところで今回とりあげるのは「鹿踊りのはじまり」と「セロ弾きのゴーシュ」。これまで何十回目となく読んできて、再度読んでみたが、特に「鹿踊りのはじまり」には、ほとんど打ちのめされてしまった。「非の打ちどころのない傑作」というだけではたりない。感想を語ることばなど、どこからも出てこない。目もうつろに、ぽかんと口をあけるばかり。こんなことで、講座をやっていけるのかと、心配になってきた。
(2012年5月9日)