【往還集123】32 土着世界観

加藤周一『日本文学史序説 下』を今日読了した。日本の文学、思想、芸能その他を視野に入れる博識ぶりには、下巻になってなお驚嘆する。林達夫、石川淳、小林秀雄をもって閉じられるものの、なお存命だったならさらに続いたはず。加藤の意識ではやはり、序説なのだ。
上、下巻に何度も説かれるのは、日本の土着世界観だ。芭蕉の発句の特徴として、日常的此岸の現在、微妙な部分への執着、美的感受性の極度の洗練をあげる。大衆演劇を語る章でも、「常に全体からではなく部分から出発しようとする著しい傾向」を指摘する。
この土着世界観がまともに表れたのは、短歌だったと今にして思う。「一人称の文学」と特化される根は深くにあったのだ。それをどのように超克するかが前衛期の最大の課題だった。が、この挑戦は必ずしもうまくいかず、土着世界観がまた頭をもたげた。<差し戻し裁判>というわけだ。
(2012年4月11日)