なみの亜子は、西吉野の山間集落に住みついてから10年になる。新歌集『バード・バード』にはその住環境と日々の生活が色濃く反映されている。なかに、
「汲み取り代一万一千円を支払いぬ糞するくせにしないふりすんな」
があって、思わずにじゅうまる◎をつけた。
水洗トイレの都会生活では、便は一気に暗黒へと吸い取られて跡形もなくなる。金銭がいくらかかったかなんて、考えもしない。ところがなみのさんの所は汲み取り方式。糞のしまつのための金銭もまともにかかる。これでは「私は糞のことなんかしりません」と白を切るわけにはいかない。
人間はどんなに隠したって、糞尿をする存在である、そのことを生の根本に据えなければならないーーと、大仰にいっているわけではないが、この歌はそういう根の所在を確認していると思う。
もし糞尿が下賤だとするならば、なによりも人間が下賤だということになる。
(2012年12月9日)