藤原作品についてもう少し付け加えます。
「パソコンの起動音こそ恩寵ぞ」
とは、船や飛行機で脱出しなくても、パソコンを起動させれば一気に国境を越えて世界人になれるという意味です。
しかしそれで本当に国籍にとらわれない自由人になれるかどうかといえば、そうはいかない。この割り切れなさを現代人はいやおうなく負っているというところに藤原の問題意識はあります。
私自身をふり返ってみると、左翼青年だったころは〈祖国〉を呪い、「日本脱出したし」派でした。しかし年齢とともに、どこに行ってもそれぞれの問題がある、幸福だけの国は存在しない、そうであるならたまたま生まれ落ちた〈此処〉を見据えようではないかという気持ちになってきました。
春夏秋冬の折々に「かけがえのない風土」(毎週月曜日BS日テレ放送のコーラス「フォレスタ」のことば)も見出し、親和するようにもなってきたのです。
(2020年3月15日)