というわけで、目下のとんでもない事態の進行と長期政権の危うさを慨嘆しつづけてきましたが、「往還集」はそれに留まっていてはならない、今まさに立ち会っている一人間として、内外に起きている事柄の深部へ耳を澄ましていきたいのです。
藤原龍一郎新歌集『202X』(六花書林)を読み終わったところです。
彼は韻律としての美質の方向をとらず、情況に対してまともに対峙しながらも諷刺化・戯画化する姿勢をとってきました。そのなかの1首。
「パソコンの起動音こそ恩寵ぞ「日本脱出!」したし今こそ」
塚本邦雄の
「日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」
を踏まえています。「日本脱出したし」とは、こんな貧相な国など抜け出して他国へ亡命したいという、塚本の戦後日本への思いがこめられている。
藤原氏もまた近年の〈祖国〉に対して呪詛に近い感情を抱きつつ風刺精神を作動させたのです。
(2020年3月15日)