裏通りには北から南へと流れる用水路があり、歩道も連なっている。そこが自分たちの通学路で、車道は一段下がったところにある。
先頭を行く同級生が、怪しげな風体の男を見つける。黒牛を引いている。
「チョーセンだ」と耳打ちする。
2人目も「チョーセンだ」と応じる。
誰が先ともなく石つぶてを拾って「チョーセン、チョーセンベーゴ」と囃し立てて投げる。
自分も、つぶては拾わなかったものの一緒に叫んで走る。
頭部を腕でかばおうとするその人、暴れる牛をなだめようとするその人。
〈事〉としてはそれだけなのですが、以来、今に至るまでこの日の事を反芻しつづけてきました。
愛犬を殺したのがその人という確証があるわけではない、だのにチョーセンが犯人だと決めつけた、背景には大人社会の差別意識があり、子どもにも伝播していた、だからといって差別する側に属していた自分を許すわけにはいかないーと。
(2019年9月12日)