【往還集145】9 全歌集

歌人が亡くなると、これまでの歌集をまとめ、全歌集として刊行されることがあります。 
なかには存命中なのに「全歌集」と銘打つ人もいます。「今の今で〈全〉なのだから〈全〉でいい」などという理屈を聞いたことがありますが、どこか変。
やはり全歌集は当人の死後、全業績をまとめるという目的を持たせるのが自然です。
私はこれまで何冊もの全歌集を読んできて、今日も『稲葉京子全歌集』(短歌研究社)を読み終わったところ。
毎度のことながら1冊を閉じようとするとき、えもいわれぬ寂寥感に襲われます。
以後、この人の歌を読むことは永遠にない!
生前とりわけ親しかった歌人の場合この思いは、いっそう強くなります。
『永井陽子全歌集』
『小中英之全歌集』
『定本竹山広全歌集』
もそうでした。
「自分はもう少しこの世にいるから、それまではとりあえずさようならしておきます」と語りかけて、扉を閉じるのです。
(2019年5月11日)