【往還集145】6 坂井律子『〈いのち〉とがん』(岩波新書)

坂井は1960年生まれ、NHKに入局しディレクター、プロデューサーとして福祉・医療・教育などの番組に携わってきたと略歴にあります。
その坂井がすい臓がんにかかる。
今や2人に1人はがんになる時代(という私も目下前立腺がんで治療中)ですから、それ自体は珍しい事ではない。
この本もいうなれば患者としての〈闘病の記録〉ですが、タタカウとかノリコエルとかいう力瘤は入っていない、逆にそれらを脱落させている。
読むほうを引きつけるのも、それゆえでしょう。

「当たり前のことだけれど、人は死ぬまで生き続ける。死を受け入れてから死ぬのではなくて、ただ死ぬまで生きればいいんだ」。

テレビ番組の制作を仕事にしているが取材せず、「すべてある一人の患者が、患者として見聞きし、考え、学んだこと」の姿勢を貫いたともあります。
〈ふつう〉の場を保ったことが〈闘病記〉の新しさだと私には思われました。
(2019年5月4日)