それは恩田陸作『蜜蜂と遠雷』。
この作品は国際ピアノコンクールを描いているのですが、まず何といってもこの分野への博識さには恐れ入ります。音楽音痴の自分など、ほぼ読み惚れるほかない。
「第一次予選」の章には、中国勢が登場する。
「中国勢は大陸的というのかスコンと抜けた大きさがある」
「うらやましいのは中国のコンテスタから受ける揺るぎない自己肯定感である」
こういう中国人像を、恩田さんもはっきりと描いている。
民族の歴史・文化・風土から生成された気質はやはりある。時代とともに変化する面は避けがたいにしても、また個々人に視点を移せば「揺るぎない自己肯定感」とは必ずしもいえないにしても、民族的気質はやはり根の部分に生きつづけているでしょう。
そういえば、日中戦争時に兵士として送られながら、中国人への畏敬の念を持ちつづけた人は、少なからずいた。
宮柊二もそのひとりでした。
(2019年5月25日)