9月に入り、日数を重ねるうちに、「あ、秋」とつぶやきたくなる涼気が、朝夕の四辺を占めるようになりました。
秋にかかわる日本の古典は、いっぱいあります。
近代以降の作品にも〈名品〉を見つけることができます。
海外の文物については詳しくないのですが、私には忘れがたい1篇があります。
それはドストエフスキーの『貧しき人々』47歳のカマールと18歳(推定)のワルワーラの往復書簡という構成ですが、そのなかで彼女が幸福だった日の故郷を思い出す場面があります。湖近い田舎の夜の景色。
「水辺のすぐそばで、漁師たちが枯れ枝か何かを焚いており、その光が水面を遥か彼方まで伝っています。空は冷たい群青色で、地平線の辺りには赤く燃えるような帯が幾筋も伸びているのですが、その帯が時間がたつにつれ少しずつ薄い色になってゆき、月がでます。」(光文社古典新訳文庫『貧しき人々』安岡治子訳より)
(2018年9月7日)