【往還集143】32 成長について

せっかく『貧しき人々』をとりあげておいて秋の描写だけですませるのはいかにも片手落ち、大切なことも書きます。
これはドストエフスキーの出世作。舞台はペテルブルグ、登場するのは下級官吏のマカール47歳と両親を失い頼りない生活をしているワルワーラ。
この2人が手紙を交わし合う構成ですが、30歳ほどの年齢の差がある中年男性とうら若い女性で、はたして対等の交流が生じるのかどうか。
これが私の疑問でしたが、作品が進むにつれてワルワーラが成長するだけでなくマカールもまた成長していく。
私は川端康成の『眠れる美女』を思い浮かべます。老年の男性が薬で眠らせた女性と添い寝するが、トラブルが出て女性が死亡してしまうという粗筋。
そこでは若い女性は〈人形〉でしかない。中高年男性の少女観の典型ともいえます。
『貧しき人々』はちがう、両者とも人間として対等の関係を築き、成長していく。
(2018年9月7日)