【往還集142】15 あなたのとり上げる一冊の本

『パンセ』本文を読みおわり、最末尾の田辺保「解題」に入りました。
すると、この本がマルクスやサルトルと並んで店頭のうず高く積まれ、大衆化していることに疑問を呈しています。

「『パンセ』はまさに、あなたがえらび、あなたのとり上げる一冊の本として読まれるべき書物であった。」

一人の友人が友人に語りかけるような関係の中においてだけひそやかに開かれるはずの本、ともいっています。
幸か不幸か、現代においては『パンセ』のみならず古典に属する本、難しい本は、〈大衆化〉されることがなくなりました。
それでもほんの時々、あるきっかけによって、静かに埋もれているなかから新し世界を発見することがある。
とかく大衆化したものに群れ集まり、波が引けば一斉に忘却してしまう時代ですが、喧噪とは離れたところに、ひそかに在りつづける本がある。
本だけでなく、そういう人間もいると思うのです。
(2018年5月19日)