【往還集142】12 ヤマユリ

ネムの木イスに座っていて、ヤマユリのことを思い出し、自分のうかつさに気付いたのです。
少年の日、父方の祖父に連れられて、北上山中を何度か歩きました。
目的はキノコ採り。
そのときヤマユリに出会ったことをいつか書いたことがあります。
華麗な花というのに誰にも知られず咲き、枯れていく孤独。人間もまた、無名のまま生涯を送る人はいっぱいいるーーとまで言及しました。
けれど、ヤマユリははたして孤独だったのかと、不意に考えたのです。
孤独とは、人間が見ないからのことで、花の美しさをたたえている目は、いくらでもあったのではないか。
たとえば隣近所の草や木、また雲や風や太陽。山棲みのキツネ、タヌキ、クマ、リスたちもいる。
つまり人間以外のさまざまな生き物たち。だからヤマユリはけっして孤独ではなかった。 
そんなことになぜこれまで気づかなかったのだろうと、わが身を恥じたのです。
(2018年5月16日)