【往還集142】6 道因入道のこと

「無名抄」は鴨長明の歌論書。
その1節「道因歌に志深事」は興味深い。

「この道に心ざし深かりしことは、道因入道並びなき者也。」

とはじまる。つまり、歌の道に志の深いことでは道因に並ぶ者がいないというのです。
ある歌合で、判者清輔が道因の歌を負けとした。
すると判者に対し、涙を流して恨み言をいった。
90歳(当時としては超高齢)になって耳も遠くなる。それでも会があれば参列し、講師のわきに「つぶとそひ居て」、つまりぴたりと寄り添って坐り、耳を傾ける。
亡きのちに千載集が編纂されたとき、18首収録される。
すると撰者俊成の夢のなかに出てきて涙を落として悦んだ。
俊成は「ことのほかにあはれがりて」、さらに2首加えたという。
手持ちの『新編国歌大観』で数え上げたら、たしかに20首ありました。
それにしても歌の道に、こんなにもひたむきな人がいたとは、いまの私などにはおどろきです。
(2018年4月27日)