【往還集139】31 透明な悲

また音楽の話になって恐縮です。
「コスモス」8月号に柏崎睦さんが

「この世にて君が最後に聴きし曲ショパンのソナタ2の変ロ短調」

を発表しています。
「君」とは故柏崎驍二のこと。
ショパンなら音楽に弱い自分もよく知っている。
けれど「変ロ短調」のCDはない。
さっそく街へ行って買い求め、これが最後に聴いた曲かと感慨深く聴いています。
このようにして音楽に造詣の深い歌人に刺激され、CDを手に入れてはこの世界を再発見してきました。
バッハの「マタイ受難曲」もそういうなかのひとつ。これは三枝浩樹氏の歌からの刺激。数年まえに買い求めて以来、なぜか冬季になるとよけい聴きたくなる。
音楽と短歌は直接には関係ないが、深層において共鳴することはある。
音楽好きの歌人は韻律感覚が繊細で、内容にも透明な悲をたたえることが多い。
この印象は、深層における共鳴から来ているのではないでしょうか。
(2017年7月15日)