【往還集139】19 森へ行く人

現在の家に引っ越して間もなく、森へ行く初老の人をよく見かけるようになりました。 
森は団地に隣接している、というよりは森を切り開いて造成したわけですから、周辺は森だらけです。
その人は、山靴に脚絆、腰には斧を装着し、いかにも山林に慣れている姿。
雑木や葎を切り開いては、獣道ならぬ人道を造っていたのかもしれません。
数年して姿を見かけなくなりました。
なんとなく気になっていたある日、半身不随の体を杖で支えている姿に会いました。もはや森へ行く精悍さはありません。
さらに数年して、その姿も見ることがなくなりました。
特に縁もゆかりもない人ですから

「この頃見えないが、どうしたのだろう」

とつぶやくだけ。
私も近辺をよく散策します。森に入ることもありますから見るともなしに見ている人もいるでしょう。そのうち思われるかもしれない、

「この頃見かけないが、どうしたのだろう」

と。
(2017年6月13日)