【往還集138】40 大和類子さん・続

全国で刊行されている結社誌は近年になって衰退しているとはいうものの、いまだかなりの数になります。
私の手にしているのはその一部にすぎませんが、送られてくるたびに注目歌人の作品に目を通し近況も想像します。
類子さんもそのひとり。
去年あたりから精神のバランスの崩れたさまが伝わってきて、心を傷めていました。
そして届いたばかりの4月号には、

「誰の殻かぶつてゐるのか似非人間おののき生きて今雪しぐれ」

「ゆつくりと静かに雪は降りつもり想ひ出のみの一日は終る」

「字が書けぬ歩けぬわれはもう人を卒業したと肩おとし言ふ」

など、心の剥落したような歌が並んでいるのです。
いつわらざる最晩年の心境にちがいありません。
正直なところ、〈人間卒業ぶり〉を目の当りにするのはつらい。
けれどことばにもできない人がほとんどのなかで、歌としてきちんとまとめえたのは、せめてもの幸いだと思っています。
(2017年4月2日)

【往還集138】39 大和類子さん

大和類子(るいこ)さんは1923年生まれの「短歌人」会員で、仙台在住。
学生時代「短歌人」に入った自分にとって、先輩格です。
当時の「短歌人」は前衛短歌風で、地元の歌界からは危険視されていました。
会員も少なく、歌会といっても3人だけのことも。
以来、自分が結社をやめてからもなにかと交流はつづいていました。
震災時には家屋が相当傷みましたが、何とか修復して住んでいました。
そこに見舞いを兼ねて訪ね、置き所のなくなった「路上」をいただきました。初期「路上」からのほとんどを保存してくれていたのです。
その類子さんが、最近になって交通事故に会い、片目を失ったという歌を発表している。 
そうこうしているうちに「3・11六周忌の今夜は類子さんのお通夜でもあります」という一文が届いた。
にわかに信じがたくいたところ、同じ会の方から類子さん急逝の報が。
もう疑いようがない。
(2017年4月2日)