【往還集138】26 渡辺京二について

熊本に渡辺京二というスゴイ歴史思想家がいる。
そのことを知ったのは『逝きし世の面影』を読んだときでした。
その後著作集4巻を揃え、『黒船前夜』その他も読んできました。
そしてこのたび『渡辺京二』(言視舎)という大冊の評伝が出たのです。
著者は三浦小太郎という未知の人。それもそのはずこれがはじめての書下ろし作品ということです。
それをこの欄で紹介するのはとても無理。あえて一か所とりあげるなら、山田風太郎『明治十手架』にふれたつぎの一文です。

「この小説では、抵抗者が、政府に絶望的な叛乱を企てたり、またアウトローとして社会からはみ出すのではなく、決して権力の入り込む余地のない、ささやかな空間を作り出していく成熟差を備えていることを評価するのだ。」

評価しているのは渡辺京二ですが、彼は歴史的大変動にも決して左右されない「無告の大衆」の存在することを見据えてきたのでした。
(2017年3月2日)