【往還集138】9 対話気分で

古泉千樫は『川のほとり』1冊しか歌集を出しませんでした。『屋上の土』『靑牛集』は没後になって門人たちが編纂したもの。
私は全歌集を区切りのいいところまで読み、その範囲の上田三四二の鑑賞文にも目を通すというふうに進めていきました。
するとおもしろいことが生じたのです。
自分はとりあげていないのに、上田が秀作として鑑賞している。「なるほど」と見直して○を付け直すことがある。
逆にどうしても承服できず、「なぜこんなのがいいんだ」と毒づきたくなるのも出てくる。 
つまり鑑賞者同士で対話が生じる。

「みなぎらふ光のなかに土ふみてわが歩みくればわが子らみな来つ」

を自分は平板すぎるとしてとらなかった。
ところが上田は

「涙をさそうばかりに尊い」

と高い評価をしている。
病中詠でしかも最晩年の背景を考えればたしかに。
「ここは自分が折れるか」というぐあいに対話気分で読んでいったのです。
(2017年1月25日)