【往還集137】32 コメの石

2016年12月8日
古泉千樫の全歌集を読み進めていたら、「寒夜」の章に、

「夜寒く帰りて来ればわが妻ら焚かむ米の石ひろひ居り」
「みづからが拾ひ分けたるコメの石かずをかぞへてわが児は誇る」

に出会いました。
「コメの石ってなに?」と疑問を抱く人もいるかもしれません。
けれどこれは米に混じっている、まぎれもない粒石のことです。
今なら米袋から一粒出てきただけで、大騒ぎになる。
なにしろ現在の精米機はきわめて精巧、米袋へおさまる過程で、ほとんどの不純物を選り分けてしまいます。
しかしその技術がまだ生れない時代はちがいます。
人力に頼らざるをえませんから、黒くなった米粒はもとより、粒石まで入りこんでしまう。
それを拾い出すのが主婦や子どもたちの日課ですらありました。
「明日焚かむ米の石ひろひ居り」今読むと、なんだか切なくなってきますが、食と人間が密接であった時代の、一風景でもあったのです。