【往還集137】29 茂吉の実兄のこと

2016年12月2日
田中綾氏が「短歌往来」12月号に「聴診器もて父われは聴く」を書いています。
斎藤茂吉の実兄守谷富太郎のことです。守谷は北海道に渡り拓殖医になります。その詳しいことを知らずにきましたが、田中氏の論でかなりのことがわかり、しかも哀切な思いも湧いてきました。
富太郎が44歳のとき、一人娘富子が誕生、21歳のとき北見の大橋家に嫁がせます。
ところが結婚して2か月後に急性肺炎になり、亡くなってしまう。
父親自身が看病してもかなわなかったというのです。
富太郎もまた歌を作る人。

「逝ける子の形見とここにいささかの着物を貰ひ寂しく帰る」
「かそけくも消えゆく脈に手ふれつつし子の臨終見守りにけり」
「けくも消えゆく吾子の心音を聴診器もて父われは聴く」

このような歌が「アララギ」に残っているというのです。
自分が医師ゆえのあまりにも大きな悲しみが、ひしひしと伝わってきます。