【往還集137】1 「コンビニ人間」

2016年9月8日
芥川賞受賞の村田沙耶香「コンビニ人間」を興味深く読みました。
正直なところ評者の何人かが激賞しているのには、ついていけないところあり。
白羽さんという変人の登場ぶりがどうも芝居がかっている、つまり作為的すぎる。
むしろ私の注目したのは、つぎのような一文でした。

「どうやら私と白羽さんは、交尾しないほうが人類にとって合理的らしい。やったことがない性交をするのは不気味で気が進まなかったので少しほっとした。私の遺伝子は、うっかりどこかに残さないように気を付けて寿命まで運んでちゃんと死ぬときに処分しよう。」

同棲しても性の交わりはない。「性交」とはいわず、ずばり「交尾」。
ここには人間の〈文化〉を脱落させた、虚無と紙一重の空域がある、それは善悪とか上下の問題でなく、目下の人間の遭遇している、新鮮さとはほど遠い〈新しさ〉であるーーそんな感想を持ったのでした。