【往還集136】24 忘却の時間

2016年7月15日
「読書ノート」その2。
『藤村全集』「月報9」に瀬沼茂樹が「『新生』について」を書いています。

「歳月というのは、日本人にとって、反芻の時間であるばかりでなく、忘却の時間であり、それ故に時間の力によって心の傷がいやされる自然回復力として働くのである。これはキリスト教主義のような論理をもっていない日本人の自然哲学なのかもしれない。」

考えてみれば、いや考えるまでもなくというべきか、ほとんどの人が思い出すと赤面したくなる過去を持っている。
カトリックの場合、洗礼を受けたのちの罪は、司祭を通じて神に赦しを乞うことが制度化している。
日本の精神風土にはない。
けれど歳月を重ねることは、反芻ばかりでなく忘却の時間でもあり、自然回復力にも通じると瀬沼はのべているわけです。
それはそう、忘れてはならない記憶のある一方で、忘れることによって自分を回復させることもたしかにあります。